「さぁC.C.、どういうことか説明してもらおう。」

「どういうことも何も、見たままの通りだろう。」

「その見たままの状況があり得ないから問いただしている。」

「簡単に言えば私が呼んだ。」

「本当に簡単に言うなお前は。そもそもお前の呼びかけに応えるような面子ではないだろう。」

「まぁ応える必要はないな。拒否権は与えていないし。強制送還で一瞬だ。パーッとな。」

「・・・そんなこと、出来るわけがないだろう。」

「できるさ。だって私はC.C.だもの。」

「じゃあ何で呼んだ。」

「暇だったから。」


最早不毛とも言えるのではないかというその二人のやり取りを、じっと見つめる者達。

その数5人。

しかしその者達全員が、今その場所にいる筈の無い者達だ。




『皇帝ルルーシュ』の玉座の前、なんて。




「スザク、皆様をあるべき場所までお送りして差し上げろ。」

「イエス、ユアマジェ・・・」

「お待ちくださいな。」


口を挟んだ一人が、一歩前に歩み出る。

黒く長い髪を揺らし、毅然とした態度で。

薄く笑みを浮かべた彼女は少女のように首を傾げた。


「勝手に呼び寄せておきながらとんぼ返りなど、わたくし達が納得するとお思いですの?」

「君が納得しなくとも送り届けるのが皇帝陛下の命を受けた僕の仕事だよ、神楽耶。」

「黙っておいでなさい馬鹿スザク。」


酷いなぁと呟いたスザクに苦笑して、ルルーシュは軽く手を振った。

その仕草でスザクはルルーシュの背後に下がる。


「では晩餐にでもご招待いたしましょうか。生憎この城にシェフはいないので私の手料理になりますが。」

「まぁ、こんな大きな城ですのに・・・」

「このような身分ですから。毒を盛られたら堪ったものではありませんし。」

「ギアスをかければよろしいのではなくて?」

「さて何の事だか。」


和やかな雰囲気を装いながらも火花を散らすルルーシュと神楽耶をよそに、空気を読む気が全くないミレイが口を開く。


「私は食べたいなー。久しぶりに、ルルちゃんの料理。」


一度食べるとそこらの料理じゃ満足できなくなるのよねーとぼやいたミレイに、今度は天子が目を輝かせる。


「ルルーシュさまの料理はそんなに美味しいのですか?私も食べてみたいです!」

「天子様!?それは・・・」

「どうしたのですかカレン、美味しいものを食べたくはないの?」

「うっ・・・」


食べたいか食べたくないかと聞かれれば、どちらかといえば食べたい。

だって美味しいし。

でもそれは、と葛藤して眉を顰めたカレンの横で、奮い立ったのはコーネリア。


「そのようなことはどうでもいい!ルルーシュ貴様、一体何を考えているのだ!」

「そうですわ。あなたには聞きたいことが山ほどありますのに、厨房に籠られては困ります。」


コーネリアと神楽耶はとりあえず質問したいらしい。

ミレイとカレンと天子は晩餐に乗り気。

さてどうしようか、とルルーシュは頭を悩ませた。

その時いつの間にかどこかに行ったと思っていたC.C.がルルーシュに近寄ってきて、何やら怪しげな笑みを浮かべたかと思うと、ルルーシュの頭の上に何かを乗せた。

青い、何とも言えない形の。

心当たりのあったらしいミレイが目を見開いたのを横目で見ながら不敵に笑ったC.C.は、ルルーシュが睨みつけるのを気にすることなく声を張った。


「ルルーシュが被っているこの帽子を手に入れた者に、こいつを一日自由にする権利をやろう。」

「おいC.C.、何を勝手に・・・!」

「尋問するなり料理させるなり好きにしろ。ただしこいつに危害を加えることだけは許さん。」


傷一つでも付けてみろ地獄の責苦を味わわせてやるフフフフフと哂ったC.C.に、女性陣は一歩下がって身構えたのだが、その中で唯一一歩前に歩み出た神楽耶がほほ笑んだ。


「制限時間はありますの?」


こいつ、やる気か。

そんな視線をコーネリアが送るのも気にしないまま神楽耶は問うた。


「一時間くらいでいいんじゃないか。」


随分適当だなオイ。

そういう呆れ顔を浮かべたのはカレンだ。


「おい助けろスザク!」

「僕が参加したらきっと勝負にならないから今回は残念だけど棄権するね。」

「そうじゃなっ・・・!」

「いい加減黙れこの童貞が。もう始めるぞ。ミレイ・アッシュフォード、お前にこの大役をやろう。」


その言葉を受けて、不敵に笑ったミレイは声を張り上げた。


「第一回!ルルちゃん争奪、キューピットの日inブリタニア宮殿!!!」


何で俺が。

そんな事を考えても仕方ないという事は分かってはいるのだが、とにかく納得できない。

C.C.が何を考えているかなんて勿論理解できない。

何か考えがあってのことだろう、なんて思えない。

だって彼女はC.C.だから。

とにかくまずは体力の続く限り遠くまで移動するのが先決。

ほとんどは宮殿に訪れたことの無い人間だ。

一般人が知らないであろう抜け道は全部で37通り。

その中でもよく宮殿に出入りしていたであろうコーネリアでさえ知らない、自ら作ったルートは9通り。

現在の状況から最適なルートを・・・。


「は、あ・・・くそっ・・・!」


既に上がってきた息に悪態を吐きながらひたすらに走る。

どこか隠れられる場所で体力を回復しなければ。

ルルーシュは周囲に人気がないのを確認した後、廊下のとある壁をコンコンと叩いた。

すると何の変哲もなかった壁がガコンと音を立てて、扉のように回転する。

裏にはちょっとしたスペースがあって、身を潜めるには打って付けだ。

暫くはそこに隠れて息を整えようと、ルルーシュは深呼吸した。

一時間は短いようで長い。

だがこれらの隠し部屋を駆使すれば逃げ切れないことはない。

この勝負、もらった。

不敵な笑みを浮かべたその時。

鼓膜にダメージを与えかねないドゴッという音。

よく声を上げなかったものだと己を褒めた。

しかし事態は確実に悪い方へと向かっていた。

目の前にあるのは先ほど自分が叩いて開けた壁のはず。

それに今、拳大の穴が開いている。

何故拳大だと分かるのかといえば、事実その穴から誰かの拳が突き出ているからだ。



『・・・気のせいかしら』


そんな声が耳を掠めて、ルルーシュは口の端をひくつかせた。


カレンだ。


あまりにも型破りすぎる。

まず宮殿を壊すなよとツッコミを入れてやりたいところだが見つかれば捕まってしまうのは確実。

ぐっと堪えて息を潜めた。

やがて拳が穴から引き抜かれて、穴から光が差し込んでくる。



『中が空洞じゃない。ブリタニアの宮殿っていうのは随分安普請なのね。』



何だと貴様。

それも堪えた。

その甲斐あってカレンはその場から離れた。

一難去った・・・と深く息を吐いた、のも束の間。

ドゴォ!!!

暗かった視界が開けた。

地面に散らばった『壁だったもの』の残骸を茫然と見た後我に返ったルルーシュは叫ぶ。


「おまっ・・・壊すな!」


壁をただの残骸に変えたのはどうやらカレンの脚によるキックらしい。

足を浮かせて構えたままの状態だったカレンは、構えを解いて地に足をつけた後、大して悪びれた様子もなく「ごめんなさい」と呟いた。

しかし実際それどころではなかったのだ。

いつの間にか。

そう、本当にいつの間にか、ルルーシュの頭の上にあったはずの青いハート形の帽子は、カレンの手にしっかり握られていたのだから。

しかも腕まで女性とは思えないほどの強い力で掴まれ、これはいよいよ逃げられない。

諦めたように溜息を吐いて懐から携帯を取り出した。

いくつかのボタンを操作したあと耳に当てる。


「C.C.、カレンに捕まった。この馬鹿げたイベントを終わらせろ。」

『やはりカレンだったか!おい枢木、この賭け私の勝ちだ!約束通りピザ20枚貢いでもらうからな!』

「お前らッ・・・俺をダシにしてたのか!」


そう叫んだのも虚しく、通話は切れたらしい。

一層大きな溜息を吐いたルルーシュに、カレンは眉を顰めた。


「・・・あなた達、一体何してるのよ。」

「・・・気にするな。さぁさっさと望みを言え。」

「じゃあとりあえず何か作って。お腹空いちゃった。」


そう言ったカレンを引連れて、ルルーシュは広い廊下を歩き始めた。












「ねぇルルーシュ」


ルルーシュは返事をしなかった。

カレンの呼びかけに反応することなく、抱えたボウルの中のクリームを泡立てる。

反応を示さないルルーシュを特に責めるわけもなく、厨房の片隅で膝を抱えて腰を下しているカレンは、立てた膝に顔を埋めた。


「アンタとスザクは、この世界をどうしたいの?」

「・・・世界を壊す。それが俺達の目的だ。」

「スザクはそれに賛同したの?」

「・・・そうだ。」

「スザクは本当に、アンタの騎士なの?」

「・・・スザクは誰よりも信頼できる俺だけの騎士だ。俺を守ってくれるし、俺が道を外れれば躊躇なく俺を殺すだろう。最高の騎士だよ。」


かつて『ゼロ』であった彼の『騎士』はカレンであった。

しかし今では彼の隣には敵であったはずのスザクがいる。

ルルーシュの中にある真実を信じて、共に歩くことを決めたのだろう。

それに複雑な思いを抱きながら、カレンは涙が浮かびそうになるのを堪える。

クリームを泡立てる手を止めたルルーシュは、ボウルを置いて棚を漁る。

取り出した絞り袋に真白なクリームを詰めた。


「ねぇルルーシュ」


パンに先ほどのクリームを絞っているルルーシュはやはり応えない。


「私が、本当にアンタの騎士になれたことはあった?私のことを騎士と言ってくれたのも嘘だった?」


ルルーシュは無言のまま絞ったクリームの上にふんだんにフルーツを乗せていく。


「私がブリタニアに捕まった時、『諦めるな』って・・・『絶対助ける』って言ってくれたのは嘘?」

「・・・嘘も方便という言葉が、日本にはあるだろう。」

「そうね」

「・・・怒らないのか?」

「だってアンタは嘘つきだもの。今日の言葉の中にもどれだけの嘘が隠れているか分からない。だから自分のいいように解釈しておくわ。」

「いいよう・・・とは?」


どこか、ほんの少しだけ申し訳なさそうな顔。

そんなルルーシュを見ながら、カレンは困ったように笑う。


「誰が何と言おうと、アンタが否定しようと。あの時の私はアンタの騎士だったんだって、そう思ってることにする。」

「物好きだな。」

「褒め言葉?」

「そういう事にしておいてやる。」


笑っている内に、ルルーシュは作っていたものを完成させた。

軽食程度のサンドウィッチ。

定番の卵を使ったものや、ハムサンド、そしてデザートも兼ねたフルーツサンド。

それらを皿に盛り付けて、さぁ何処で食べようかとした時、耳に届いたのは誰かが走っている音。

そしてルルーシュを呼ぶ声。

声の主はコーネリアだろう。

厄介だな、とルルーシュが目を細めたのを見て、カレンはルルーシュから皿を奪い、空いた方の手でルルーシュの手を握った。


「カレ・・・ほぁあ!!?」


力強くルルーシュの手を引いて、カレンは走り出した。

その勢いに翻弄されながらルルーシュはされるがままに引きずられていく。


「アンタの一日は私がもらえるんでしょ!?ズラかるわよ!!」

「ちょ、まっ・・・どこに・・・!」

「どこか、誰も来ないところ!」





騎士というもの










リクエスト内容:カレルル←女性陣でルル争奪戦、キューピットの日2。
他に色々指定をいただいていたのですが、あまりにもひな祭りから時間が経ってしまったので所々いただいた設定を無視してしまいました@@
ミレイ主催のはずがC.C.主催になってますし…orz
お待たせした上にこんなものですいません@@
最初7人くらい参加者を出そうと思って7人って書いてたのに気付いたら5人しか・・・私は誰を参加させる予定だったんでしょう@@