「初めまして、黒の騎士団所属の紅月カレン隊長ですね?」
初めまして。
その言葉が、カレンにとっては何よりも残酷だった。
何もかも無かったことにされている。
「それで、会場はどちらに?」
アッシュフォード学園体育館で行われるはずの各国代表が一同に会する最高評議会。
あくまでそれに参加する為だけに来た。
それを強調するような発言に、カレンは涙をこらえる。
「ルルーシュ・・・あなたは、私の事どう思っているの?どうして斑鳩で、君は生きろと言ったの?」
「さぁ?」
ルルーシュは首を傾げた。
そのおどけてみせた様子にカレンは言葉を失う。
「私が君をどう思っているか?それはきっと私にしか分からないことなのだろうが、残念なことに私には分からない。だから君の質問にも答えられない。」
「分からないって、貴方・・・!」
「そうだな、どうしても言葉が欲しいのならかけてやってもいい。」
ふわりとルルーシュはほほ笑む。
「散々利用するだけしておいて、いざとなれば自己保身の為に仲間を売るような黒の騎士団という組織と、その組織に属している君が嫌いだ。」
次の瞬間にはカレンは手を振り上げていた。
パンッという乾いた音。
頬を殴られたルルーシュは赤くなったそこに触れながら薄く笑う。
「ああ、これで台無しだ。」
「な、にを・・・」
「話はそれだけですか、紅月隊長。それでは私は急ぎますので。」
白のマントを翻したルルーシュの背中を見つめて、カレンはその場に崩れ落ちた。
数分後、最高評議会中止の通達がなされた。
理由は黒の騎士団幹部がブリタニア皇帝に暴力を振るったため、暗殺の可能性も捨てきれないとしブリタニア側が身を引いたためだ。
ブリタニアがこれをエリア11の宣戦布告と見なし、富士山近郊での最終決戦へと発展した。
盛大なパレードの列は長く長く続いている。
警護のためのKMFと大勢の軍人に守られるようなステージの上の玉座に腰かけるのは、若くしてブリタニアを変革へと導いた男だ。
ブリタニアの改革は賛否両論ではあるものの、それは権力を奪われた貴族や財閥が主に苦言を呈しているだけであって、民衆からは多大なる支持を受けている。
いずれは帝国という名を捨てるつもりだと、皇帝はいつしかの会見で微笑みながら言っていた。
賑やかなファンファーレが鳴り響く。
ルルーシュは玉座から立ち上がり、民衆にゆっくりとした動作で手を振った。
そしてその最中見つけた人影に一瞬だけ目を細め、すぐ側に控える騎士のスザクに小さく耳打ちをした。
スザクは一礼してから傍を離れ、ルルーシュは再び視線を民衆に戻す。
「皆さん、我々は国を守り切ることができました。ダモクレスというおぞましい兵器に屈することもなく、我らの手で!」
歓声が溢れる。
「首都ペンドラゴンは消滅しました。たくさんの建造物が破壊され、たくさんの臣民が命を落とした。痛ましいことです。だが立ち止まってはいられない。世界は平和へと着実に歩み続けているのです!」
拍手に包まれて、ルルーシュは笑んだ。
その時誰かが叫んだ。
「離せっ!この無礼者!」
少し低めの、威勢のいい女性の声。
「おや、これはこれは、コーネリア姉上ではありませんか。」
スザクに拘束されてルルーシュの前に連行されてきたコーネリア。
一緒にギルフォードやヴィレッタもいる。
ギッと睨みつけたコーネリアにルルーシュは苦笑した。
「姉上、私も片方とはいえ血を分けた姉を手に掛けたくはない。」
「黙れルルーシュ!貴様はッ!」
「しかし姉上はあのシュナイゼルという男と共にダモクレスにいた。帝国の大切な臣民や、オデュッセウス兄上、ギネヴィア姉上、それにカリーヌやそのほかの兄弟たちも手に掛けたのです。私は皇帝として許すことはできない。」
「ナナリーですらも処刑しようというのか!」
「同腹だからと情けをかけては皆に面目が立ちません。私はもう一国を背負う立場なのですから。」
簡素なドレスのようにも見える赤い囚人服を纏ったナナリーは、ステージの下で潤んだ瞳を揺らしていた。
ルルーシュがそれを気にかけることはない。
信じられないような目で見つめてくるコーネリアに、ルルーシュは首を傾げた。
「どの道私は『今の』黒の騎士団を許すつもりはない。他に、言いたいことは?」
「・・・貴様もその黒の騎士団の一員だっただろう!ルルーシュ・・・いや、ゼロ!」
それまでルルーシュに歓声を送っていた臣民がしんと静まり返る。
あのブラックリベリオンを起こした反逆者ゼロが、正義の皇帝と名高いルルーシュと同一人物。
驚くのも無理はないだろう。
しかし動揺するわけでもなく、ルルーシュはふふっと笑った。
「姉上は勘違いをしておいでのようだ。私はゼロではありません。」
「なにをっ・・・!」
「私はシャルル・ジ・ブリタニアの血を引く第『12』皇子としてこの世に生を受けてから皇帝に就任するまでの約18年間、ブリタニアはおろかブリタニア宮からすら出たことはない。」
「第12、皇子・・・?」
「おにい、さま?」
「私の名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国第12皇子にして皇位継承権0位。」
継承権0位。
それは決して皇位を継げないという数字であると同時に、1を超える絶対的な数字だ。
ナイト・オブ・ワンを超える存在、ナイト・オブ・ゼロに就任したスザクがいい例だ。
しかしそれと同じくらい気になっているのは第12皇子だということ、
ルルーシュは11皇子だと言われていたのに。
「あなた方の知る『第11皇子ルルーシュ』は私ではない。」
その時。
周囲が騒然となる。
ルルーシュの発言に驚いたからではない。
このパレードに割り込む影があったからだ。
太陽を背にして立つ姿。
現れたその姿は正しく彼の反逆者のものだった。
「うそ・・・ゼロ・・・!?」
処刑台に括りつけられたままのカレンが息をのんで呟いた。
ゼロはいつもの仮面を被り、いつものマントを風に靡かせながら堂々と立っている。
そしてルルーシュはゼロに向けて手を差し出すような仕草を見せたのだ。
それを合図にしたかのように走り出したゼロは難なく近づいてくる。
ルルーシュの近辺を警備しているはずのジェレミアやKMFはぴくりとも動かない。
そのまま走ってステージの上に飛び乗り、びくりと震えたナナリーを気にすることもなく駆け上ったゼロは、持っていた装飾の多い剣をステージに突き刺した。
そして。
「ちょ、ゼロ!」
悪逆皇帝を、抱きしめたのだ。
集まっていた民衆や、元黒の騎士団の面々や、捕まったコーネリアなどは口をあんぐりと開ける。
ルルーシュは嫌がる、というよりも恥じらっているようだ。
顔を真っ赤にして、ゼロの身体を押し返そうと抵抗している。
「ゼロ!いい加減にしろ!」
「嫌だ。」
「往来だぞ!」
そういう問題でもないと思うんですが。
そんな突っ込みを入れれる勇者はその場には存在しない。
「スザク!助けろ!」
「イエス・ユアマジェスティ」
スザクにあっさりと引きはがされたゼロはやれやれとため息を吐きながらその仮面に手をかけた。
カシャン、とギミックが作動して、仮面が外れる。
「お兄様が、2人?」
ナナリーが茫然と呟く。
並んで立ったルルーシュとゼロは、全く同じ顔をしていた。
「どういうことだ!」
「見ての通りですよ、姉上。」
口を開いたのはゼロだった。
いつも相対していた時と変わらない口調。
幼少のころアリエス宮で会っていたのは『ゼロ』の方だったのかと、コーネリアはへたり込んだ。
「私達は双子。私は第11皇子ゼロ・ヴィ・ブリタニア。もっとも『ゼロ』という存在は抹消され、私は『ルルーシュ』としてアリエス宮で育ったが。」
「では、私が一緒に日本に来たのはっ・・・」
「『ルルーシュ』ではなく私だよ、ナナリー。」
突き刺した剣の柄に仮面を立てかけ、ゼロは民衆を見据える。
「ブリタニアには古い習わしがあった。詳しくは言えないが、その闇に私は名を葬られ、弟ルルーシュは存在を葬られた。その戒めを破り、弱者を虐げる国ブリタニアを壊す・・・それが私達の目的。」
民衆は何も言えない。
『ゼロ』は多くのブリタニア人を殺す結果となった。
しかしそれについて責める者が誰もいないのだ。
誰も口を開けない。
それは二人の出生故かはわからないが。
「世界は私が壊し、ルルーシュが再生させた。支配し、虐げる国ブリタニアはもう存在しない!」
ワァアアっと歓声が溢れた。
処刑台にいた扇は「皆ギアスにかかっているんだ!」と叫んでいたが、それらの歓声に掻き消えて、その声が誰かに届くことはなかった。
漆黒輪舞曲
98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアを失脚に追い込み即位したルルーシュは皇帝として、その兄であり破壊の象徴とされたゼロは宰相として。
2人が成し遂げた偉業の数々は良くも悪くも後世まで語り継がれた。
リクエスト内容:ゼロルル双子でルルは実はブリタニアから出たことがなかった設定、双子バレ
すいません、これが一番リクエストを無視している小説かもしれません@@
咲世子さんやロイドさん忘れてましたし・・・っていうか明らかに終わり方適当なのがモロバレ@@;
とりあえず同日UPの小説のあとがきにも書きましたが、その小説と内容が若干被ってしまったため(文才不足w)、タイトルも似た感じでいいやっていう暴挙ですw
「しっこくろんど」と読んでやってください。
アルテミシアさま、本当にすいませんでした^ρ^;