「はぁっ・・・先輩の唇、柔らかかったなぁ・・・」


そんな同僚の溜息混じりの台詞を聞いたスザクの手の中で、マグカップが粉砕した。









その唇は誰のもの?リターンズ!〜諸悪の根源来襲〜












「おはよう、兄さん」

「おはよう、ロロ。」


ちゅっ

ピキッ


「ねぇ、ルルーシュ。なんでロロにキスなんてするんだい?」

「・・・そういうお前は何でまたこんな朝早くから当然のように居座っているんだ。」


神聖ブリタニア帝国最強の騎士といわれるナイトオブラウンズの一員である枢木スザクは、何故か朝7時からアッシュフォードのクラブハウスを訪れていた。

ルルーシュはその時間に既に起きていたのだが、勿論こんな時間に来客が来るなんて想定外だった為に寝惚け&寝巻き状態で応対し、スザクの雷を受けた。

何で朝から怒られなくてはいけないのかとブツブツ文句を言いながらルルーシュは朝食を作り始めて、それを然も当たり前のように見ながらスザクは新聞を読み、コーヒーを啜っている。

非常識極まりないスザクの行いにルルーシュは口元を引きつらせて睨み付けるあたり、最早相互間にあるはずの『ゼロとラウンズ』という敵対関係はあってないようなものだ。


「枢木スザクさん。どうしてこんな朝から僕の兄さんに迷惑をかけているんですか?」

「やぁロロ、おはよう。朝の挨拶が終わったんならさっさと俺のルルーシュから離れたらどうだい?」

「俺の、なんてよく言えますね。片腹痛いです。」


火花を散らす二人を横目で見て溜息を吐きながら、ルルーシュは朝食を仕上げた。

焼きたてのクロワッサンとスクランブルエッグ。

サラダにドレッシングを添えて、ロロにはグラスに牛乳を注いだ。


「とりあえず朝食食べないか。」

「「いただきます!」」


競い合うようにがっついた二人に、ルルーシュは苦笑した。


























ルルーシュの作った朝食を平らげた後、スザクは先に行くと言ってクラブハウスを出た。

変な奴だな、なんてルルーシュが首を傾げていたが気にしない。

それどころではないのだ。

スザクはクラブハウスを出て登校するルルーシュを、後ろからこっそりとつけていた。

そして信じられない事態を次々と目の当たりにすることになる。


「おっはよ〜ルールちゃん!」

「おはようございます、会長。」


朝から相変わらずのテンションなミレイは軽快なステップを踏み、ルルーシュとの距離を一気に詰めた後ルルーシュの唇に吸い付いた。

ちゅ〜なんて音がリアルに聞こえてくるようだ。

唖然とするスザクなんて知りもしないルルーシュはそれに笑顔で返して。

あとでね〜と手を振るミレイに手を振って、何事も無くまた歩き出した。

次に現れたのはシャーリーだ。

彼女は羞恥心なのか何なのかは分からないが顔を真っ赤に染めている。

立ち上る湯気が見える気がするのは気のせいか。


「ル、ルルッ!おはよ!」

「おはよう、シャーリー」

「あのっ・・・今日も、いい・・・かな・・・」

「ん?当たり前じゃないか。」


嬉しさから飛び上がったシャーリーはどぎまぎしながらもルルーシュの頬にちゅっと口付けた。

そのあとすぐルルーシュもシャーリーの頬に口付けたのだから驚きだ。

またにこやかに手を振ってシャーリーとも別れた。

その後始まった授業を何気なくこなして、あっという間に昼休み。

人目を気にしながら移動するルルーシュを、スザクは猶もこっそり尾行した。

図書室に何故か「立ち入り禁止」という札を下げている。

副会長権限なのだろうが、図書館に何があるというのだろうか。

こっそり身を滑りこませる。

ルルーシュはとある一角の本棚に移動し、棚から突き出している本を押した。

ガコッという音と共に棚が動き、その後ろから隠し扉が現れたのだ。

そこから出てきたのは。


「悪いな、ルルーシュ。」

「・・・なんだ、急用は。」

「ああ、次のこの作戦なのだが・・・」

「それはお前に任せる。お前の身体に負担にならない程度に・・・」

「私の身体など構うな。」

「そうはいかない。騎士団にとってもうお前の存在は欠かせないんだよ、星刻。」


星刻。


そう呼ばれた男に、スザクは見覚えがあった。

中華の武官であるはずの彼が何故ここに?

そう考えて、ルルーシュが『騎士団にとって』と発言したことをふと思い出した。

やっぱりルルーシュはゼロなのだと。

今ここで捕らえてしまおうと身を乗り出したとき。


「んっ・・・ぅ・・・ぁ・・・」


ちゅっ、ちゅく

なんと艶かしいのかという音が響いて、スザクの思考は完全に停止した。

それを機に頭の中から『黒の騎士団』と『ゼロ』という言葉がスポンと抜け落ちる。

星刻がまるで貪るようにルルーシュの口内を舌で蹂躙し、ルルーシュは熱に浮かされたようなうっとりとした視線を星刻に向けている。

スザクの動物並みにいい視力では、二人の唇が離れた後その相互間に伝った銀糸ですら明確に捕らえてしまい、初めて己の視力が恨めしくなった。


「はっ・・・星刻ッ・・・お前の挨拶はいつも激しすぎるぞ!」


え?挨拶?


「そうか?これが私なりの挨拶なのだがな。それでは私は戻る。」


星刻が扉の向こうに消え、棚が移動して扉が見えなくなって、こそこそとしたルルーシュが図書室から消えても。

スザクは一歩も動けずにその場に立ち尽くしていた。



挨拶。



記憶が蘇る。

とんでもない過ちを犯してしまったのだと、スザクはその時初めて悟った。


























我を取り戻したスザクが大慌てでルルーシュを探し出すと、ルルーシュは校庭を一人歩いていた。

声をかけようとしたまさにその時、そこに現れたのはアーニャとジノだ。

スザクの目が自然と細まる。

さっと木陰に身を隠した。

ジノが言っていた『先輩の唇』は本当にルルーシュの唇のことなのか。

何としても確かめなければならない。


「ルルさま、おはよ・・・」

「おはよう、アーニャ・・・と言ってももう午後だが。」


この前までアールストレイム卿って呼んでたのに!!

スザクの叫びは当人たちには届かない。

そしてスザクの視線の先で、ルルーシュはアーニャの額にキスを落とした。

アーニャは「また額・・・」と不満げに目を細めたものの、屈んだルルーシュの頬に口付けた。


「せーんぱいっ、おっはよーございまーす!」

「・・・今日も無駄に元気なやつだな、ジノは。」


この前までヴァインベルグ卿って呼んでt(ry


「今日はラウンズの任務は無いのか?」

「あったけど即効で終わらせてきた!そんなことよりさ、先輩!」

「しょうがない奴だな。挨拶一つに何をそんなにこだわるんだか。」


満面の笑みを浮かべたジノが小さくガッツポーズしたのが見えた。

血の気が下がる。

すうっと心が静まった途端、プツンと何かが音を立てて切れた。

ジノの唇がルルーシュに迫る。

ルルーシュも苦笑して顔を少しだけ上に上げた。


「・・・だッ!!!!何だ!!?」


唇を目前にして、ジノは唐突に顔を上げた。

その目には涙がうっすらと浮かんでいて、腰の辺りをさすっている。


「ジノ?」

「今何かが・・・腰に・・・」

「ルルーシュ」


割り込んだ第三者の声。

首を傾げたルルーシュがその声がした方向を向くとそこには、片手で石を弄ぶスザクの姿が。

今度血の気を一気に下がらせたのはジノだ。

禍々しいまでの殺気に満ちた彼の只ならぬ様子に目に見えて焦り始める。


「いや、スザク、その・・・これはだな!」

「言い訳はいいよ。別に君を責めないから。」


そう言いながらスザクは手に持っていた石をジノに放る。

放る、といっても野球選手顔負けの剛速球だ。

ビュッと音を立てて投げられた石は見事ジノの身体に命中し、ジノは涙を浮かべながらもルルーシュの前から下がらざるを得なくなった。


「スザク!お前っ・・・石を人に向けて投げるな!」

「ジノは悪くない。悪いのはルルーシュだね。」

「・・・むしろお前がっ、んぅ!??」


石を投げた当人であるスザクが悪いに決まっているだろうというルルーシュの主張はものの見事に呑み込まれ、ルルーシュは目を限界まで見開いた。

ちゅくちゅくという水音がずっと周囲に響く。

唖然とするジノとアーニャの元に騒ぎを聞きつけたミレイなどの生徒会メンバーが集まってきて。

ルルーシュが「骨抜き」にされていく様子をただ手を出すことも出来ず見守る。

やがて解放されたルルーシュはその場にへたり込み、肩で息をした。


「ルルーシュにはお仕置きが必要かな。」

「スザッ・・・」

「煩いよジノ、まだ僕に用でもあるの?」

「・・・イエ、アリマセン(ごめんセンパイ!助けれそうに無い!)」


そうして連行されていくルルーシュを見守りながら、ミレイは涙ながらに呟いた。


「さよなら、私たちのルルちゃん・・・」



それ以来ルルーシュは『挨拶代わりのキス』に応じることは無くなり、生徒会メンバーはいいとしても黒の騎士団の面々は「またもブリタニアに奪われた!」と憤怒するのだった。





リクエスト内容:その唇は誰のもの?シリーズ続編、スザク登場

やっぱりこうなりました。
気持ち狂気くん化してるあたり私のスザクに対する認識も所詮こんなもんですwww
このシリーズは何かと続編を望んでいただいてて自分でもビックリですw
そして私のネーミングセンスにもビックリ・・・orz
カナカさま、こんなものですいません^^;