夕日に照らされた彼の背中を、星刻は黙って見つめた。

泣いているのではないだろうか。

そう思ってしまうほど果敢なく、悲しげな背中。

声をかけるのを躊躇してしまい、伸ばしかけた手を止めて言葉を飲み込んだ。

黒の騎士団はなんとも薄情だと思う。

日本を、世界をブリタニアの手から取り戻すためにはゼロの力が必要不可欠だった。

元々今の幹部たちがレジスタンスとして行動していたのを、ちゃんとした『騎士』として作り上げたのだから。

その裁量には目を見張るものがあるし、カリスマ性はその生まれ故だろう。

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

神聖ブリタニア帝国第11皇子、第17位皇位継承者。

そして、祖国に棄てられた皇子。

ゼロの正体がそれと知って、騎士団の心は離れた。

そして何より彼の持ちうる異能の力に怯えた。

アッシュフォード学園の生徒とゼロの二重生活。

ブリタニアの組織からの監視の目。

隠れて暮らさなければいけない、元皇子という身分。

大切なものをいくつも喪うという悲劇。

年若い彼ならば、逃げ出してもおかしくはない。

しかし彼は逃げなかった。

逃げず、この事態も視野に入れて、緻密に計画を練っていた。

そのお陰で自分はここにいるのだと、星刻は感謝した。

他の誰でもなく、ゼロに。

ゼロという仮面を被ったルルーシュという男に。



くんっと服の裾が引かれる。

隣にいたのは日本国代表、神楽耶。

彼女は瞳に一杯の涙を溜めながらも気丈に笑っていた。

黒の騎士団の偽りを、決して認めなかった。

他人によって齎された情報よりも、己が目で見て、己が耳で聞いて、己が心で感じたことを信じる。

神楽耶は強く、優しい日本人。

神楽耶が星刻に微笑み、力強く頷く。

それから涙でグチャグチャになった顔を星刻の服の一部である腰布で拭った。


「なっ・・・貴様!」


そのあまりの行いに思わず声を上げてしまう。

しまった、と思ったときには既に遅かった。

ルルーシュの、小さな背中がビクリと震えて、ゆっくりと振り返る。


「なんだ、きていたのなら早く声をかければいいものを。」

「あ、ああ・・・すまない。」

「ルルーシュ様ッ!!」


先ほどの泣き顔とは打って変わった、花が咲いたような笑顔。

それを浮かべて神楽耶は走り出し、反動をつけてルルーシュの腰の辺りに抱きつく。

それだけでルルーシュはバランスを崩し、「ほぁあ!?」と声を上げて倒れかけた。

星刻は咄嗟に走り出し、全ての罪を背負うにはあまりにも細く頼りない身体を支えてやる。

ため息一つ。


「全く・・・君という男は。」

「す、すまない。」


申し訳なさそうに、そして恥ずかしそうに体勢を立て直したルルーシュは抱きついてきた神楽耶を自分の身体から引き剥がした。


「まさか本当に来てくれるとは思っていなかったな。」

「ここへ来るのは当たり前ですわ。わたくし、あなたの妻になる女ですもの。」


それにルルーシュは笑うだけだった。


「君は、この事態を予測していたんだろう?」

「お前は俺を買い被り過ぎだよ、星刻。」

「そんなことはない。分かっていたからこそ、私たち二人にだけは真実を打ち明けたのではないのか。」



何週間か前。

大切な友人が死んだのだと。

そう力なく語ったゼロは仮面を外し、星刻と神楽耶にその素顔を明かした。

そして身分も、目的も。

持ちうる異能、ギアスのことも。

ギアスに関しては手に入れた過程と制約、効果、ブリタニアにおける影響力まで事細やかに。

そしてそのギアスを滅ぼすためにその謎に包まれた組織を破壊しようとしていることも。

その数日後、今度はブリタニア皇帝が不老不死の肉体を手に入れたことも。

隠さず、全て。


「何故彼らに弁明すらしなかった?」

「無駄だろう?」

「まぁ・・・確かに。」

「日本解放戦線の方々にしても・・・彼らの死がなければわたくし達はここまで大きくなることができなかったと言うのに・・・愚かなこと。」


ふふっと神楽耶は笑った。


「わたくし達が、とうの昔に『黒の騎士団』という楔を絶ち切っては飛び立ったとも知らずに。」

「ゼロなくしてはあの組織は成り立たない。我らが手を下さなかったとしても、じきにその身を滅ぼすだろう。」

「『黎星刻総司令』がいれば大丈夫なんじゃないのか?」


ニヤリとルルーシュは嗤う。

星刻も、神楽耶も哂った。


「私達は『黎星刻』と『皇神楽耶』としてではなくただの『星刻』と『神楽耶』としてここにいるのだ。以前の二人はゼロと共に死んだよ。」


ルルーシュの右手を星刻が。

左手を神楽耶がそれぞれ握って、ルルーシュは満足そうに哂った。


「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。飼い主に噛み付いた愚かな狗共を潰してこい。」


ブリタニア人ではないから、ブリタニア式の言葉は言わない。





言葉を返す事無く、ただ星刻と神楽耶は微笑むだけだった。





























「神楽耶様ッ・・・何を!!」

「わたくし、以前にも一度言ったことがありますわ。あなた方に対してではなかったですけれど。」



星刻が、一人、また一人と己の剣で切り裂いていく。



「今度は、あなた方に対して言わせていただきますね。」



神楽耶の、年相応の無邪気な笑顔。

ゆっくり、星刻の剣が扇に向けられた。



「言の葉で、人を殺せたらよろしいのに。」







そうしたらわたくし、ゼロ様を裏切ったあなた方を自分で殺してさし上げますのに。



ああ、残念。







「ねぇ、星刻?」
「そうですね、神楽耶。」




赤が、舞った。








裏切りの、その代償は




その命の『終わり』をもって、償いを。






一つ言えることは、リクエストで上げるようなモノじゃないくらいダークだってことです。
なんか・・・すいません。
書いてたらこんなにも真っ黒になっちゃいました!
謀の意味を調べるところから始まり(←馬鹿)、色々膨らませたらこんなことに・・・orz
所望してたものと違うかもしれませんが、すいませんw
リクエストありがとうございました!