「ロロ・・・」



いつか殺してやろう。


大切な妹の居場所を奪った偽りの弟を。


そう思っていたのに、彼を喪って、涙が溢れて止まらなくなった。


いつだってそうだ。


喪って初めて、大切だったことに気づく。


我ながら学習能力がないと自嘲した。


しかし立ち止まってもいられない。


ロロが切り開いてくれた路。


それを無駄にしないためにも、やれることはしなければならない。


ユーフェミアを喪った。


スザクとの絆を失った。


シャーリーを喪った。


ナナリーを喪った。


黒の騎士団という仲間を失った。


ロロを喪った。


もう喪うものは何もない。


もう何も恐れることはない。


あとは前に進むだけ。





「それで?これからどうするの?」

「ああ、これから神根島に行って・・・ってほぁああ!?」




ルルーシュは盛大に叫んだ。

そして思わず後ずさろうとして、バランスを崩して地に倒れこむ。

後ずさるも何も、ルルーシュはロロの為に作った墓の前で膝を抱え込むように座っていたのだから。

地に手を付き、身体を起こしながらルルーシュは見つめた。

いつの間にか隣で、同じように膝を抱えて座っていた女性を。



「カレッ・・・何でここに!!?」

「何でって、あなたを追いかけて来たからに決まってるじゃない。あ、紅蓮は目立たないように蜃気楼から少し離れたところに置いてきたわ。」



よくもまぁいけしゃあしゃあと言ったものだ。

ルルーシュが信じられない様子で視線を送ってくる。

カレンは笑って、それと・・・と言葉を続けた。



「さっきのアンタ、考えが全部口に出てたわよ。」

「なッ・・・!」



ルルーシュ自身は物思いに耽り、心の中だけで決意を固めていたと思っていたのだが。

それは気づかない内に全て声に出されていたらしい。

ルルーシュが顔を赤らめる。



「あと、私が隣にいることになんで気づかないわけ?」

「いや、その・・・」

「まぁいいわ。」



まだどちらかと言えば寝そべっている体勢に近いルルーシュに、カレンは手を差し伸べる。

すまない、とその手をルルーシュがとって、カレンが反動をつけて引っ張り起こす。

その余りの勢いにぐら付いたルルーシュの頬を、カレンは思い切り張り倒した。

パンッと大きな、乾いた音が響く。

赤く、熱を持ち始めた頬を押さえて、呆然とルルーシュはカレンを見つめた。



「紅月カレンを舐めるのも大概にしなさい!」

「カレ・・・ン・・・」

「私、そんなに弱い!?アンタに全部背負ってもらって、全部罪を被ってもらって、自分犠牲にしないと助けれないような女!?心外だわ、腹が立つ!」




カレンは憤慨していた。

その目にはうっすらと涙が膜を作っている。


「何よ、『君は生きろ』って!アンタ犠牲にして生き延びた私が喜ぶとでも思ってるの!?」


数多の銃が向けられた時。

ルルーシュはカレンのことを『最高の駒』とのたまった。

それだけならばよかった。

その後離れるカレンに「生きろ」と言葉を掛けたのだ。

駒なら、いっそ気に掛けないで欲しかった。

駒なら駒らしく、ただ切り捨ててくれればよかったのに。



「中途半端なことしないでよ!なんでそうやって・・・私を信じてくれないの・・・!?」



奴隷になってでも信じてやる。

そう誓ったのに。



「もう裏切らないって・・・逃げないって決めたのに・・・なんで・・・」

「カレン・・・」

「なんでアンタはそんなに肌白いのよ!なんでそこらの女より細くて軽いのよ!なんでそんなに体力無いのよ!」

「なッ・・・それは今関係ないだろう!」

「ないわよ!でもついでだからアンタに対する不平不満を全部言ってやるの!料理は上手いし頭はいいし、女装は似合いすぎてっていうか美人すぎて!一体何様のつもりよ!」

「何様って・・・」



続けようとした言葉を、ルルーシュは飲み込んだ。

カレンが大粒の涙をぼろぼろと零していたからだ。

頬を伝って落ちた涙が次々と土に染みていく。

ルルーシュは困ったように眉を寄せて、懐からハンカチを取り出した。

それを差し出されたカレンは、受け取った後またルルーシュを睨む。


「なんでこんな時までハンカチなんて持ち歩いてるのよ。しかも綺麗にアイロンまでかけて。何もかも腹が立つわ。」

「いつ何時ハンカチが必要になるかもわからないだろう。持ち歩くのは当然だ。」

「はいはいすいませんでした。」


涙をハンカチで拭うカレンを見ながら、ルルーシュは苦笑して自分の頬に手を添えた。

もはや外気に当てられただけでビリビリと刺激を与えてくる。


「それにしても痛いな。」

「痛くなるようにやったんだもの、当たり前じゃない。まだ平手なだけ感謝して欲しいくらいだわ。」

「・・・・・・それは」

「捕まってた時ね、スザクをグーで殴ってやった。」



合掌。



ほんの少しだけ、ルルーシュはスザクを哀れに思った。

平手は平手で痛みの部類が違うような気もするが、拳で殴られるよりはマシだろう。

ははっ・・・と笑って、それからルルーシュは目を細めた。



「カレン、君は早く騎士団に戻れ。」

「もう一回殴られたい?」

「・・・それは嫌だが。今ならまだ間に合う。あそこは君の『居場所』だろう?」

「居場所なんてもうないわ。・・・いいえ、居場所なんてもういらないの。」


ルルーシュの手をカレンが握る。

ルルーシュはそれを黙って振りほどこうとしたが、カレンはそれを許さなかった。

力では圧倒的にカレンのほうに分がある。

力で男に勝ってしまうのはなんとも複雑な気分だ。


「逃げないで。」

「カレン・・・」


「私ももう、逃げないから。あなたから眼を背けないから。」




だから。







あなたの傍に、私はいます





リクエスト『19話捏造カレルルでルルがカレンを追いかけて合流したら』です。
ルルーシュにビンタするカレンを書きながら「顔はらめえぇえ!」って思ってましたすいません腹切ります。
リクエストありがとうございました!